好みの彼に弱みを握られていますっ!
***

 私は宗親(むねちか)さんとのいわゆる〝大人の営み〟についてサラッと話すと、
「そう言えばほたるの方はどうなの?」

 半ば照れ隠しに話題を変えた。

 でも聞いてみたかったのは事実。

 だって私、Misoka(ミソカ)のオーナー明智(あけち)さんの、ほたるへの恋心を知ってしまったから。

 大好きなお店のオーナーさんだし、応援したい気持ちは目一杯あるけれど、そこを聞いてからじゃないと無責任にイケイケ〜!って言えないよねって思って。

「うーん。私? 私はねぇ〜、ちょっとだけ気になる人がいる……かなぁ?」

 ほたるがフフッとはにかんだように笑うのを見て、これは〝ちょっと〟じゃなくて〝かなり〟好きだなって思って。

「え? 誰、誰っ? 職場の関係の人?」

 だとしたら私は知らない人だから、明智(あけち)さんじゃないことになるなって、ちょっぴり遠回しのズルイ探り。

「まさかぁ〜。うち、スタッフ女性ばっかだよ。お客さんも女性が殆どだし……仕事場で恋心とか無い無いっ」

 そこでアイスコーヒーをチューッと吸い上げるほたるを見て、(わ〜、色っぽい!)って思ってしまった。

 私もほたるに(なら)うみたいに氷が溶けて薄まりかけたカフェラテをカラカラかき回してふた口ほど吸い上げてみたけれど、ほたるみたいに色っぽく唇をすぼめられた自信はない。

 ほたるがストローについた口紅を指先で軽く拭うのを見て、私も慌てて真似をして。

 だけどしっとりした雰囲気でそれをこなしたほたると違って、私のはバタバタした感じになる。

宗親(むねちか)さんはこんな私のどこがそんなに好きなんだろう)

 ふと、そんな不毛なことを考えてしまった。

 Misoka(ミソカ)で私を見染めたなら……ほたるのことだって目に入ったはずなのに。

 どうして私《《で》》いいって思ってくださったのかな。

 宗親さんに話したらきっと「春凪(はな)《《が》》いいんです」って溜め息をつかれちゃう。

 でもそう言うやりとりも含めて私、何だか未だに慣れないの。


「あ、春凪。いま、彼氏のこと考えたでしょう?」

 途端ほたるにクスッと笑われて、私はドキッ!とさせられる。

「えっ、な、何で分かっ……」

 恥ずかしくてワタワタする私に、ほたるが「だっていまの春凪、すっごく憂いを帯びてて綺麗だったから」とか。

「嘘……」

 「憂い」も「綺麗」も私とは縁遠い対局の言葉に思えてしまう。
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