好みの彼に弱みを握られていますっ!
36.一番大切なのは*
宗親さんの腕の中。
逃げ去っていく康平に必死に手を伸ばして「私、あの人、を追、いかけな、きゃ……いけな、いん、ですっ」と泣きじゃくったら、宗親さんが無言で立ち上がった。
そのまま私に手を伸ばしてその場に立たせると、「少し待ってて」と残して、ちょっと先に転がった私の鞄を手に戻っていらして。
「もし僕があげた指輪を奪られたとかそんなことを気にして言ってるんだとしたら……本気で怒りますよ?」
とゾクリとくるほど抑揚のない静かな声音で言われた。
宗親さんはいつもいつも私の左手薬指に自分が渡した婚約者の証があるかどうかを気にしていた。
この状況下でもそこに気付かれないわけがなかったんだと、私はますます溢れ出す涙を止められなくなる。
「……でもっ、あ、れは……宗、親さ、に頂いた、大、切なも、のでっ。だ、から……私っ……。――きゃっ」
諦めるわけにはいかないのです、と続けたかったのに、無言で距離を詰めていらした宗親さんにいきなり膝裏をすくわれて。
あれよあれよといううちにお姫様抱っこをされてしまった私は、その言葉を最後まで言わせてもらえなかった。
「宗親、さっ、……わ、たしっ」
「もう黙りなさい、春凪。指輪なんかよりキミの手当ての方が大事だってどうして分からないんですか?」
まるで会社にいる時みたいに命令口調でピシャリと言い切られて、私は何も言えなくなってしまう。
宗親さんが物凄く怒っていらっしゃるのが、その雰囲気からひしひしと伝わってきて。
私がしっかりしていなかったから……指輪を奪われて怪我までさせられて……。
きっと宗親さんの逆鱗に触れてしまったんだって思った。
「ごめ、なさ……っ」
康平に言われた、『こんな高そうなモン、失くしたとなったら婚約破棄かもな?』という言葉を思い出した私は、『お願い、見捨てないで』って思いに支配されて、宗親さんの首筋にギュッとしがみつきながらポロポロと涙を落として。
しゃくりあげすぎて声に出来ない分、心の中で懸命に宗親さんに許しを乞うた。
ふと視線を落とした先。
ラベンダー色のワンピースの胸元が、さっき康平にボタンを外されたまま、はしたなく着乱れていて……。
それが私の不始末の名残みたいに思えてちくちくと胸が痛んだ。
逃げ去っていく康平に必死に手を伸ばして「私、あの人、を追、いかけな、きゃ……いけな、いん、ですっ」と泣きじゃくったら、宗親さんが無言で立ち上がった。
そのまま私に手を伸ばしてその場に立たせると、「少し待ってて」と残して、ちょっと先に転がった私の鞄を手に戻っていらして。
「もし僕があげた指輪を奪られたとかそんなことを気にして言ってるんだとしたら……本気で怒りますよ?」
とゾクリとくるほど抑揚のない静かな声音で言われた。
宗親さんはいつもいつも私の左手薬指に自分が渡した婚約者の証があるかどうかを気にしていた。
この状況下でもそこに気付かれないわけがなかったんだと、私はますます溢れ出す涙を止められなくなる。
「……でもっ、あ、れは……宗、親さ、に頂いた、大、切なも、のでっ。だ、から……私っ……。――きゃっ」
諦めるわけにはいかないのです、と続けたかったのに、無言で距離を詰めていらした宗親さんにいきなり膝裏をすくわれて。
あれよあれよといううちにお姫様抱っこをされてしまった私は、その言葉を最後まで言わせてもらえなかった。
「宗親、さっ、……わ、たしっ」
「もう黙りなさい、春凪。指輪なんかよりキミの手当ての方が大事だってどうして分からないんですか?」
まるで会社にいる時みたいに命令口調でピシャリと言い切られて、私は何も言えなくなってしまう。
宗親さんが物凄く怒っていらっしゃるのが、その雰囲気からひしひしと伝わってきて。
私がしっかりしていなかったから……指輪を奪われて怪我までさせられて……。
きっと宗親さんの逆鱗に触れてしまったんだって思った。
「ごめ、なさ……っ」
康平に言われた、『こんな高そうなモン、失くしたとなったら婚約破棄かもな?』という言葉を思い出した私は、『お願い、見捨てないで』って思いに支配されて、宗親さんの首筋にギュッとしがみつきながらポロポロと涙を落として。
しゃくりあげすぎて声に出来ない分、心の中で懸命に宗親さんに許しを乞うた。
ふと視線を落とした先。
ラベンダー色のワンピースの胸元が、さっき康平にボタンを外されたまま、はしたなく着乱れていて……。
それが私の不始末の名残みたいに思えてちくちくと胸が痛んだ。