好みの彼に弱みを握られていますっ!
宗親(むねちか)さ、……私に……怒って……お、られない、んですか?」

 恐る恐る問い掛けたら、小さく吐息を落とされて泣きたくなってしまう。

 私は宗親さんの一挙手一投足、彼の反応の全てにビクビクしている自分に気が付いた。

「何で僕が春凪(はな)に怒らなきゃいけないの? 春凪は悪いことなんてひとつもしていないのに」

 とても静かな声音で告げて、私をじっと見下ろすと、「まぁ、キミをこんな目に遭わせた男には、はらわたが煮え繰り返るほど(いきどお)りを覚えていますけどね」と怒気を滲ませる。

 一瞬だけ宗親さんの視線が物凄く鋭くなったのを見てしまった私は、ビクッと身体をすくませた。

 今まで散々腹黒スマイルを浮かべる宗親さんにゾクゾクさせられてきたけれど、いまの彼はそんな生やさしい空気を(まと)ってなんていなかったから。


 不安の余り、宗親さんをじっと見つめたら、宗親さんの視線が着衣の乱れを隠すためにギュッと握りしめたままの私の胸元に流されて。

「――春凪、ちょっといい? ボタン……」

 そんな声とともに彼の手がこちらに伸びてきたから、私は思わず身体をすくませて丸まった。

 宗親(むねちか)さんは、私には怒っていないとおっしゃったのに、完全に彼の空気感に呑まれて、何か乱暴なことをされるんじゃないかと(おび)えて。

 宗親さんが私にそんなことするはずなんてないと頭では分かっているのに、さっき康平に酷い目に遭わされた事が、心の片隅でずっと(おり)のように(とど)んで、私をいつまでも離さないの。

 宗親さんはそんな私の様子に伸ばしかけた手を宙空で躊躇(ためら)いに揺らせると、グッと(こぶし)を握り込んでから、気遣うようにやんわりと私を抱きしめた。

「宗、親、さ……?」

 その身体が小さく震えているのに気が付いた私は、抱きしめられたまま宗親さんを恐る恐る見上げる。

「――ごめんね、春凪(はな)。僕がキミを一人にしたばっかりに」

 宗親さんの声が今にも泣き出しそうに聞こえて。

 私は彼の腕の中で一生懸命首を横に振った。
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