好みの彼に弱みを握られていますっ!
宗親(むねちか)さ、んはっ、悪く、な……ぃ、ですっ。宗親さ、が来て下さ、って……私、本当に嬉しか、ったし、ホッとし、たんです……! ――だって、あ、のまま、だった、ら、私、きっと……」

 無意識にそこまで言って、康平がいやらしく胸に触れてきたのを思い出した私は、身体を震わせながら肌蹴たままの胸元に添えた手にギュッと力を込めた。

「宗親さ、私、……あの人に触ら、れたところが、全、部……気持ち悪、い……。お、風呂、……入り、たい……」

 そう口走った後、今からほたるが来て、彼女の恋の後押しをする約束だったのに。私は何て自分勝手なことを言ってるんだろう、って頭の片隅に引っ掛かって。


「あ、でも……ほた、る……」

 うまく考えが整理出来ないままに、頭に浮かんだことを次々と脈絡なく口に乗せたら、宗親さんが私を抱く腕にギュッと力を込めた。

「こんな時なのに、キミは友達のことを気にしちゃうんだね……」

 宗親さんは吐息混じりに、でもとても愛し気にそう落とすと、私から少し離れてスマートフォンを操作なさって。

「今、タクシーを呼びましたので、とりあえず外に出ましょう」

 「でも……」とおろおろソワソワする私に、「大丈夫ですから、僕に任せて?」と優しく微笑むと、再度私を横抱きに抱え上げて、店内に続く入り口に向かう。

 私は宗親(むねちか)さんの腕の中、ギュッと服の胸元を握りしめたまま、呆然とそんな彼を見上げることしか出来なくて。



明智(あけち)、僕も春凪(はな)も帰らないといけなくなりました。――ほたるさんがいらしたら、いい加減ガツンと男を見せてください。動かないまま後悔したくないなら次に会う時までに《《良い話を》》僕と春凪に聞かせるように頑張るべきです。――いいですね?」

 有無を言わせぬ口調の中に〝動けば『良い結果』になる〟のだと含ませて、宗親さんは「え、ちょっと待て、織田(おりた)っ!」と呼びかける明智さんを無視して、店のドアを潜ってしまった。



「あれだけ発破を掛けたんです。いくら奥手な明智でもさすがに動くはずです。長い付き合いの僕が言うんだから間違いない。――だから春凪、どうか安心して家に帰りましょう? お願いだから自分を癒すことだけ考えて?」
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