好みの彼に弱みを握られていますっ!
 そう言うところのある人だから、もし今回私が訴えを取り下げたりしたら、逆に「春凪(はな)が虚偽の申し立てをして自分をハメた、と逆恨みし兼ねない」とも宗親(むねちか)さんに言われて。

 途端、それが容易に想像出来てしまった私は、宗親さんの言に納得するとともに、この件に関する外部からの連絡事項の一切合切(いっさいがっさい)を宗親さんに一任することにしたのだ。

 彼と付き合いのあった私よりも、宗親さんの方が前田康平という人間をよく掴めている気がして、私の好きな人――まだ夫というのには多大なる照れがっ!――は本当にすごいなと思ってしまった。


 そんなこんなで何か動きがあった場合、警察や弁護士などからの連絡は全て宗親さんの携帯電話に入るようにしてもらって、基本私はノータッチ。

 入ってきた情報のなかで、宗親さんが必要があると判断したもののみ、今回みたいに私に伝えて下さる感じで。

 さすがにまだあの日のことを思い出すと心臓がバクバクしてしまう私には、宗親さんのそう言う諸々の申し出と配慮が本当に有難かった。


***


「せっかく取り戻して頂いたのに……これをする機会って……きっと、もう数えるくらいしかないですよね」

 大きなダイヤが輝く婚約指輪を眺めながら、ホゥっと溜め息をつく。

 はめるたび、指が腫れてしまいそうに思えた大ぶりのダイヤの両サイドに、小さなダイヤが三つずつ配された煌びやかなデザインのエンゲージリング。
 付けることを宗親(むねちか)さんに強要(?)されていた時には「目立ちすぎてしんどい」と思っていた指輪だったけれど、いざ以前みたいには付けていられないのかな?と思ったら、ワガママだけどちょっぴり寂しくなった。

 婚約指輪は、その名の通り婚約している人がつける指輪だと思う。

 結婚したら旦那とペアになった結婚指輪を付けるのが普通だ。
 婚約指輪も、ものによっては結婚指輪との重ね付けが出来るらしいけれど、私が宗親さんに頂いたこれはそれを許してくれるような控えめなデザインではなかったから。

 今後この指輪を付けられる機会があるとしたら、例えば華やかな晴れの席――友人知人の結婚式や、二人の記念日など――以外にはないんじゃないかな?と思って。

(でも――)

 この指輪を見ると、康平とのことを思い出してゾクリとしてしまうのも否めない。
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