好みの彼に弱みを握られていますっ!
 果たしておめでたい席に、あんなことがあった指輪をして行くのは適切だろうか?と思ったら、ソワソワと心が(ざわ)ついて。

(ほたるが明智(あけち)さんと結婚するってなっても、私、この指輪を付けて参列するのはきっと無理だ)

 半ば無意識。
 大切な親友のおめでたい日に、怖い思い出を連れて行くのはイヤだ、って思ってしまっていることに気が付いて、私はハッとした。

 婚約期間だって、色々あってあやふやだった私たちだ。
 元々そう呼べる期間自体がそんなに長かったわけじゃないのに、その貴重な時間を不本意とは言え、私のせいで削ってしまったこと。また指輪には罪なんてないのに、今後もそれを付けることを躊躇(ためら)ってしまう自分に、少なからず罪悪感を感じてしまう。

 そんな私に、宗親(むねちか)さんがニコッと笑って、「春凪(はな)ならきっと、そう言うだろうなと思って……勝手なんですが珠洲谷(すずや)さんに頼んでコレを用意してもらいました」って言うの。

 珠洲谷(すずや)さんといえば、婚約指輪を買うときにお世話になったジュエリーショップのオーナーさんだ。

 そんなことを考えながら宗親さんに差し出された数枚の紙片を手に取った私は、瞳を見開いた。

「これって……」

 それはどう見てもネックレスとイヤリングのデザイン画で。
 どの絵も、婚約指輪に使われている七石のダイヤを再利用したと思われる図案になっていた。

 真ん中の大きなダイヤはネックレスのトップに。両サイドの小振りのダイヤ六つは数個ずつに分かれてイヤリングに持っていったり、数個だけネックレスのトップと一緒に、と様々なバリエーションが考えられているみたい。
 イヤリングの方は、全て石が左右対称に同じ数ずつで分かれているのかと言えばそうじゃなくて、アシンメトリーを狙ったのかな。左右非対称に分かれているものもあって。

 各々の洗練された美しいフォルムに、私は思わず見惚れてしまう。

「気に入るのがありそう? ――指輪はさ、結局のところどちらも僕の好みや母の意見を優先してしまったから。普段使い出来るようこの指輪をリメイクする時は、春凪(はな)の好みを最大限反映したいって思ってる」

 デザイン画の段階なので、私がこうして欲しいと意見を出せば、そのように変更することももちろん可能なのだと付け加えられて――。

 元々それほどアクセサリーに関して物凄いこだわりがある方ではなかった私は、宗親(むねちか)さんの言葉に慌ててフルフルと首を振る。

「どれも凄く素敵で何か意見をいうとか烏滸(おこ)がましいですっ。それに――」

 きっと指輪を他のアクセサリーに作り直してもらうと言うのは沢山お金がかかるんじゃないかなって思って。

「そこまでして頂くのは何だか申し訳ないです」
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