好みの彼に弱みを握られていますっ!
 元々素敵なデザインのリングなのだ。

 康平とのことでケチが付いて、心情的にこのままの形で身に付けることが出来るかどうかすら怪しくなってしまったのは、私自身の問題。
 決して指輪のせいなんかじゃない。
 だけど現状のまま身に付けるのが無理なことは紛れもない事実だったし、作り直してリセットしてもらえるなら、凄く凄く嬉しいって思って。

 なのに――。

 どうしても金銭的な負担などを考えて、私は素直に首を縦に振れないの。


「あの男にケチをつけられたリング(かたち)のまま、春凪(はな)にそれを身に付けてもらうのは、《《僕が》》どうしても嫌なんです」

 なのに宗親(むねちか)さんはそんなことを言って私を腕の中に抱き寄せると、「ね? 春凪。お願いだから《《僕の気持ち》》を汲んで?」って耳元で懇願(こんがん)する様に(ささや)いてくる。

 私は宗親さんの〝お願い〟に(ほだ)されるみたいに小さくコクッと(うなず)いた。


 でもね、宗親さん。私、本当は分かってるよ? 宗親さんが、私の本心を見抜いて……その上で素直になれない私を救う形でご自身が全ての責を負って私の心の負担を肩代わりして下さったこと。


「宗親さん……。大好きです」

 そう思ったら殆ど無意識。私は宗親さんにギュッとしがみついて、そうつぶやいていた。


***


 康平の実刑判決が出たと聞いたのは、織田家(おりたけ)主催の盛大な結婚披露宴があってから、数ヶ月後のことだった。

 宗親さん(づて)で聞いた話によると、康平の刑は執行猶予なしの懲役十一年。

 「それでは少な過ぎる、無期懲役でもいいくらいなのに!」と宗親(むねちか)さんは憎々し気なお顔をなさったけれど、私にとっては結構長い刑期に思えて。

(執行猶予がないということは、康平、その間ずっと刑務所で刑に服さないといけないんだよね?)

 そう思ったら、十年以上の実刑というのは本当に重い罪に思えたの。

 十一年もあったら今二十三歳の私も軽く三十路を越えてしまっているし……宗親さんに至ってはアラフォーだ。

 人並みにうまくいっていると仮定すれば、子供にも恵まれていて……。その子が生まれた年にもよりけりだけど、泣いたりミルクを飲んだりしか出来なかった赤ん坊が、走り回ったり自分の意見が言えるようになっているんだよね?って考えたら、それは決して短い期間ではないように思えたの。


春凪(はな)はとにかく何に対しても甘すぎます。そこがキミの魅力でもあるんだけど――」

 宗親さんはそんなことを言って溜め息をおつきになられたけれど、私はやっぱりそう思ってしまう。

 でも、だからと言って康平を許せるかと聞かれたらそれはまた別の話なんだけど。
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