好みの彼に弱みを握られていますっ!
明智(あけち)さん、統和(とうわ)さんってお名前だったんですね」

 私の横、澄ました顔でビールを飲んでいらっしゃる宗親(むねちか)さんは親友――だと勝手に私が思っている――の明智さんとは苗字で呼び合っていらっしゃるし、私自身にとっての明智さんは長いことマスターだったから、下のお名前を聞くのはすごく新鮮だった。

 「へぇー。統和さんかぁ~。かっこいいお名前ですね」って何の気なしで口にしたら、隣の宗親さんから「春凪(はな)は下の名で明智のことを呼ばなくていいです」って即座に物言いがついて、カウンター内、明智さんの横に立つほたるがそれに「うんうん」と頷くから、思わず笑ってしまった。

 クールビューティーな印象のほたるも、明智さんの前では可愛らしい女の子なんだなぁって気が付いたらすっごく嬉しくて。私は始終顔がにやけっぱなしです。


***


 最初のうちは明智(あけち)さんと一緒にカウンター内。まるで新婚夫婦みたいに楽し気に色々お手伝いをしていたほたるだったけど、今は私の《《真正面》》に腰かけて、レモンティーを赤ワインで割った〝ワインレモネード〟を飲んでいる。


 そう、さっきまでは確かに。私も宗親(むねちか)さんと横並びに座ってカウンター越し、明智さんやほたると話していたはずなんだけど。


織田(おりた)さん、春凪(はな)をお借りしますね。――春凪、《《これ》》、あっちに持ってくね?」

 明智さんが、私とほたるに新しいカクテルを作ってくださったタイミングを見計らったようにほたるがそう言って。

 テキーラベースのマルガリータがカウンターに置かれたと同時。羊乳チーズの〝マンチェゴ〟をほたるからお預けされた私は、思わず立ち上がってしまう。

 マルガリータは、普段ならグラスの縁に塩がつけてあるのだけれど、私が受け取ったグラスはそうなっていなくて。

 あれ? いつもと違う?とキョトンとしたら、「マンチェゴ(そのチーズ)は塩味がしっかりしてるから。食べた後、口の中に残る(ほの)かな酸味もマルガリータによく合うはずだし、チーズ好きの柴田(しばた)さん――じゃなくて今は織田(おりた)さんか。ま、キミには塩より断然そっちの方がお勧めかなって思ってね」と明智さんからお墨付きを頂いた。
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