好みの彼に弱みを握られていますっ!


「親がさ、言うんだ。春凪(はな)に仕事なんて続けさせて子供が出来たらどうするんだ?って」

 明智(あけち)が、僕同様生春巻きを小皿に取り分けて口に運んだのを見届けてボソッと言ったら、「え?」と問い返された。

「だからっ。子供だよ、子供」

 我が子が結婚したのだから、親がそういうことを考えるのは自然な流れなんだろう。
 ましてや僕は、一応織田(おりた)の跡取り息子。

 もちろん織田(うち)には妹だっているから、絶対に僕たちがその責務を負わないといけないわけじゃないんだけど、残念ながら夏凪(かな)にはまだ結婚の予定はおろか恋人の影もない。

 となれば、必然的にこちらへの期待値が上がってしまうのは仕方ないことだろう。


 自分がオリタ建設に戻るにあたって、妻も神代組(かみしろぐみ)から引き抜きたいと話したら、神代を辞めさせるのは賛成だが、オリタに連れてくるのはなしだと言われた。

 両親は、子供が出来た場合に備えて春凪は家にいた方が得策だという考えらしい。

(すでに彼女が身ごもっているとかならまだしも気が早過ぎだろ!)

 そう思った僕が『もし仮に春凪が妊娠したとして、すぐさま仕事を辞めねばならないとは思わないんですけどね?』と反論したら、『春凪さんの性格を考えた上で言ってるの?』と、母から溜め息をつかれてしまった。

 何度か春凪と接するうちにさすがと言うべきか。
 母はもちろんのこと父も、春凪の特性を見抜いてしまったらしい。

『仕事が忙しかったりしてみろ。お前が選んだあの子は、自分を優先して体調不良を訴えてくれるようなタイプか?』

 母を援護するみたいに、父からもそう言われてしまった僕は、グッと言葉に詰まった。

 実際、春凪(はな)はもう少し自己本位でもいいのにと常日頃から僕も感じるぐらい周りに気を遣う女性だ。
 クソ男に襲われて自身がボロボロになっていた時でさえ、坂本さん(ゆうじん)のことを気にしていたくらいだから。

 そんな彼女が、仕事を続けていて妊娠時にありがちな体調不良を訴えたりすることが出来るのか?と問われた僕は、何も言えなくなってしまった。


「それで〝織田(おりた)の嫁〟って言葉が出たわけか。柴田さん――じゃなくて春凪ちゃ……、っと嫁さん本人はどう言ってんだよ」

 目の前の明智(あけち)が、「柴田さん」呼びを避けて「春凪ちゃん」と呼びそうになったのを、すぐさま睨みつけて制したら「嫁さん」と当たり障りのない呼び方に路線変更した。

 僕だって明智が坂本さんと付き合うようになってからは〝ほたるさん〟と呼ぶのをやめたんだ。
 そのぐらいの配慮はしてもらわないと困る。


「春凪は最初僕のそばを離れたくないようなことを言ってごねてたんだけど――。うちの両親と話してからは辞める方に傾いてる」

 春凪は、僕との子供が欲しいらしい。 
< 542 / 571 >

この作品をシェア

pagetop