好みの彼に弱みを握られていますっ!
「――っ」

 急に至近距離で見詰められたことにドギマギしたら、「春凪(はな)、何だか顔色が悪い気がするんですけど……僕の気のせい?」とか。

 私、努めて普通にしていたつもりなのに、宗親(むねちか)さんは本当に(あなど)れない。

 このところ何となく身体が重だるくてしんどかったんだけど、今日は特に辛くて。

「あ、あの……。ちょっとだけ身体が気怠(けだる)くて」

 夕飯も作るのが辛かったから、夕方にパン屋さんに出向いてデニッシュパンのサンドイッチを買って来てしまった。

「今日は朝から春凪が何となく覇気がなさそうに見えて……気になって早めに仕事を切り上げさせてもらったんだけど。……正解だったな」

 今し方渡されたチーズは、元気がなさそうに見えた私のために、明智(あけち)さんに頼んでオリタ建設まで届けに来てもらったらしい。

 このところ連日のように二十二時(じゅうじ)を過ぎていた宗親さんが、今日は十九時(しちじ)前に帰宅なさったのはそういうことだったみたい。


 申し訳なさに眉根を寄せて、「一日中家にいるくせにごめんなさい」って謝ったら「そんなの関係ないでしょう? 調子悪い時は遠慮なく僕に頼ってくれていいんです」って抱きしめる腕に力を込められた。

「春凪は体調不良でもお構いなしに無理しすぎるところがあるから」

 それが、宗親さんとの結婚を機に仕事を辞めなくてはいけなくなった理由だったことを思い出した私は、面目(めんぼく)なさに縮こまる。

「身体も少し熱い気がするけど……熱は測ってみた?」

「あ。熱は大したことなくて微熱程度です。けど、何だか気持ち悪くて……。だからごめんなさい。夕飯も、せっかく買ってきてくださったチーズも、今日は食べられそうにないです……」

 実はお昼も食べられなかったけれど、それを言ったら宗親(むねちか)さんを必要以上に心配させてしまうかも知れないと思って言わずにおいたんだけど。

 力なく笑って宗親さんを見上げたら、「ねぇ春凪(はな)。もしかしてそれって……」と真剣な顔で見詰められてしまう。

 宗親さんがいつになくソワソワなさっている気がして(そんなに心配なさらなくても少し寝たらきっと治りますよ?)なんて思いながらキョトンとしたら、「ひょっとして生理が遅れたりしてないですか?」って……。

 ――えっ!?

(言われてみたら今月の予定日っていつだった……?)

 仕事を辞めてからあまり手に取らなくなってしまっていた手帳をいそいそと開いてみたら、予定日を二週間以上も過ぎてしまっていることに今更のように気が付いて。

「あ、あの……宗親さん……私……」

 私の表情ですべてを悟ったらしい宗親さんが、

「検査薬買ってきます」

 腕時計にちらりと視線を落としてから、そうおっしゃって玄関に(きびす)を返した。

 近所のドラッグストアは十九時(しちじ)閉店。今はまだ十八時半(ろくじはん)過ぎだから、急げばきっと間に合うはず。
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