好みの彼に弱みを握られていますっ!
「自分でしないのでしたら、僕が覆い被さってすることになりますけど宜しいですか? その場合、不可抗力でキミがコンプレックスを抱いている胸に触れてしまうこともあるかもしれません」

「なっ!」

 あまりの言い草に私は思わず瞳を見開いて。

 でも、理由も語らず泣きじゃくる私に、いつもと変わらぬ口調で――何なら嫌味すら混じえながら――接してくださる織田(おりた)課長が、何だかある意味有難く思えてくるのは気のせいかな。

 私が慌てたようにシートベルトを掛けるのを確認なさってクスッと笑うと、織田(おりた)課長が車を発進させる。

 笑われたのはいただけないし、いちいち冷たく突き放すような物言いをなさるけれど、私がちゃんとベルトをするまで待っていてくださるとか、案外優しいところもあるんだなって思って。


 そんな織田(おりた)課長にご迷惑をおかけしていることに再度思い至って、ハッとする。


 私は、さっきみたいにただがむしゃらに訳も分からず謝り続けるのではなく、具体的に何が気になっていて申し訳なく感じているのかを口に出すことにした。
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