好みの彼に弱みを握られていますっ!
「僕はどうやってあの場から抜け出そうか、ずっと考えていたんです。キミには申し訳ありませんが、貴女が泣きながら席に戻ってきたのを見た時、正直僕には茶番を終わらせる、またとない好機にしか思えなかったんですよ」


 ぼんやりと(うかが)い見た織田(おりた)課長の口元がニヤリと()(えが)いたのが見えた気がして、私は少し肩の力を抜く。

 だとしたら、私ひとりが負い目を感じる必要はない……の、かな?って思えたから。

「お役に立てたのでしたら光栄です……」


 私が泣いていようがいなかろうがお構いなしと言った風情(ふぜい)の、織田(おりた)課長の淡々とした変わりない態度に、私は少しずつ自分が冷静さを取り戻していくのが分かった。


 織田(おりた)課長が人でなしのドS課長で良かった。

 もしも物凄く優しい人で、「どうしたの?」って根掘り葉掘り聞かれていたら私、今もまだ大泣きしていたと思うもの。
< 92 / 571 >

この作品をシェア

pagetop