好みの彼に弱みを握られていますっ!
***

「とりあえず僕の住むマンションが近いので、そこに向かってますけど。――異論はないですね?」

 さっき、自分にも利点があったのだと言ったのと同じ口で、

〝泣きじゃくっていた貴女をあの場から連れ出してあげたんです。言うことを聞くのは当然ですよ?〟

 織田(おりた)課長は口には出さずとも、そんな恩着せがましさが垣間見える言い方をする。

 そこがまた彼らしくて、思わず笑ってしまいそうになった。


 込み上げそうになる笑みを懸命に押し殺しながら織田(おりた)課長の提案に小さくうなずいたら、

「つい今し方までビービー泣いていた割に随分余裕ですね」

 堪えきれず、口の端にほんのり浮かべてしまった笑みを目ざとく見つけられて、指摘されてしまう。

 運転中のくせに、ホント器用な人。


「余裕なんかあるわけないじゃないですか」

 私はそこで好み過ぎる織田(おりた)課長の顔を見ないように気をつけながら、目一杯虚勢を張ってみせる。

「ただ……。――織田(おりた)課長が相変わらずろくでなしな感じなので、罪悪感を感じずに寄り掛かれそうだなってホッとしただけです」


 今日はオフなんだもの。
 少しぐらい日頃の溜飲(りゅういん)を下げたって許されるよね?

 プライベートだからこそ本音が言えるってあると思うもの。
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