好みの彼に弱みを握られていますっ!
 今日は期せずして苦手なはずの上司と仕事以外でやたらと話す機会に恵まれてしまった。

 私だって戸惑っているけれど、もしかしたら織田(おりた)課長だって部下には余り見せたくないあれこれをさらしてしまったんじゃないかしら。

 そう思ったら少しだけ緊張(こわばり)が抜けて。

 対等……とまではいかなくても、そこそこに憎まれ口を言える程度にはこの空気感に慣れることが出来た。


「――ろくでなしとか……。思ってても普通は直属の上司相手に面と向かって言わないと思うんですけど」

 言葉とは裏腹。ふと視線を投げた先、織田(おりた)課長が口の端に微かに笑みを浮かべていることからも本気では怒ったりしていないみたいだというのが分かる。


「――さて、それだけ軽口がきければ話せますよね? 泣いていた理由(わけ)を」



 その頃には車は、三十数階はありそうなタワーマンション内に設けられた、地下駐車場に入っていて。

 織田(おりた)課長は「来客用」と地面に書かれたいくつかの区画の内のひとつに車を駐車する。
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