好みの彼に弱みを握られていますっ!
 私の住んでいるアパートは、各部屋の扉前までフリーで誰でも来られちゃう上に、肝心なドア扉の鍵だって、昔ながらの差し込んで回す(ディスクシリンダー錠)タイプ。

 ドア自体も木製で、よくよく考えてみたら(おの)か何かを持ってきて思いっきりぶん殴ったら簡単に破壊できちゃう気がして。

 4年以上住み続けてきて、幸いにも1度も怖い目には遭わなかったけれど、ビル内に入るなりすでに先程の自動ドアと合わせて2つの顔認証キーで守られた出入り口を潜った今は、それがとても心許(こころもと)なく思えてしまう。


 しかも――。



「お帰りなさいませ」

「ただいま戻りました」

 私たちがロビーに入るなり、こちらに声をかけてきたのは、ホテルのフロントみたいな場所にいらっしゃる2名の美しい女性で。

 身だしなみがきちんと整えられているのはもちろん、ロビーの雰囲気を損なわない落ち着いた雰囲気の、濃紺の制服に身を包んだ人達。

 ひとりは清楚なお嬢様然とした、ハーフアップがよく似合う人で、もうひとりはショートボブが愛らしい、可愛い系の女性。

 織田(おりた)課長が小声で「ここはコンシェルジュ付きマンションなんです」とおっしゃった。

 コンシェ……?
 え?

 と思ったけれど、おそらく管理人さん的な人たちのおしゃれな呼び方か何かなんだと思う。
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