婚約者に裏切られたその日、出逢った人は。

「あ、あぁっ、はぁっ、あぁ……」
 快感に引きずられ、喘ぎがとめどなく口をついて出ていく。喉が痛くなってきても止められなかった。
「朝海、朝海」
「あぁ、いいっ、きもちいい、あぁぁっ」
 呼ばれる名前に応えるように、朝海は快感を口に出す。打ち付けられる肌の、ぱんぱんという音にさえ、体は感じていた。
「あん、聡志、さん……」
「もっと、もっと呼んで」
「聡志さん、さとし、っ、あぁっ!」
 内側に感じる快感がひときわ強くなり、先ほどと同じように、朝海の神経を追い込みにかかってくる。耐えられる限界が近かった。
「あ、も、うっ、もう、だめ……っ」
「もうちょっと我慢して、一緒にイキたい」
 言葉とともに、さらに強く腰が打ち付けられ、限界を超える強烈な刺激が与えられる。
「う、あぁっ、も、ほんと、にっ、やぁっ」
「もういいよ、イって──うっ」
「あ、あぁぁ、あぁ──!」
 朝海が喉を反らして叫ぶと同時に、中に入った聡志自身が膨張して震える。直後、熱いものが避妊具越しに吐き出されるのを感じた。

 目を覚ました時、体がなぜかうまく動かせなかった。
 状況を思い出した後、朝海は、背後から聡志に抱きしめられていることに気づいた。
 体に回された腕の感触、背中から感じる彼の体温。
 それらをひどく心地良く、そして愛しく感じていることも、朝海は認識せざるを得なかった。
 聡志との出来事は、この一日限りでしかない。
 そう思い定めて抱かれたはずだ。なのにどうして、こんなにも胸が痛くなるのか。
 理由に、気づきたくはない。気づいたところでどうにもならない。
 また、自分の身の程を知らされて傷つきたくはない──それ以上に、彼に、わきまえない女だと思われたくはない。
 何も話さなかったけど、聡志はきっと、恵まれた家で育っているはず。そしておそらく、家業を継ぐ立場の跡取り息子なのだろう。今日一日だけでも、それが事実に違いないと感じられた。
 だから、優しくされたことも、一夜だけでも愛されたことを、光栄に思わなければいけない。
 この一日の出来事、そして今夜のことは、良い思い出にすべきなのだ。
 朝海は、聡志を起こさないようにベッドから出て、買ってもらったツーピースを身に着けた。これぐらいは持ち帰っても許されるだろう。
 手帳の白ページに『お世話になりました』とだけ書いて破り、サイドテーブルの電話の下に置く。
 そうして荷物をまとめ、後ろ髪を引かれる思いを断ち切って、朝海は部屋を後にした。
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