婚約者に裏切られたその日、出逢った人は。
「いつになったら、丁寧語でない話し方をしてくれるのかな」
「……は?」
「君と僕の仲だろう」
指に、今度ははっきりと口づけられて、頭が沸騰する心地がした。
「な、仲って何ですか。そんなものありません」
「そう? あの夜、あんなに僕の腕の中で乱れてくれたのに?」
とんでもないことを言われ、今度こそ頭、のみならず全身の血が沸騰した。
「知りませんっ」
「まさか、なかったことにするつもりか?」
低まった声音に驚いて顔を上げると、聡志が、怖いほどに鋭い目をしていた。
怒っているかのような、張りつめた空気に戸惑っていると、さらに手を引き寄せられる。
勢いで聡志の胸に飛び込む格好になった直後、きつく抱きしめられた。
「そんなこと許さない」
「四ノ宮さん、離して……っ」
「聡志だろ」
耳にキスされながらささやかれ、全身が総毛だった。
「……っ……!」
ギリギリで抑えた声を聞き逃さなかったらしく、聡志は耳元から唇を動かさないまま、小さく笑う。
「そうだな、あの夜も、耳で君はすごく感じてた」
耳の輪郭を唇が、熱い舌先がたどっていく。あの夜の感覚がよみがえろうとしている恐怖に、朝海はおののいた。
「や、めてくださ……」
「やめない、絶対」
耳から離れた唇が、今度は朝海の唇を捕らえた。容赦ない動きで入り込んでくる舌の温度と感触が、媚薬のように朝海の頭から理性を奪っていく。
「ん、ぅっ……はぁ……」
足ががくがくと震え、力が抜けそうになる寸前、聡志に腰を支えられた。ふたたび朝海をきつく抱きしめながら、強い声で聡志は言った。
「今夜は帰さないから覚悟して」
その声の引力と、体の奥を刺激する体温と匂いに、朝海はもう抗えなかった。
「……っ、あ、んぁっ……」
朝海の奥で、聡志の楔が興奮している。熱さと圧迫感でそれがわかって、朝海はひどく嬉しかった。
太腿の上にまたがる格好になった朝海を、聡志は下から何度も突き上げてきた。それはまるで、不実を責められているような執拗さで、離れるのを許さないと言っているかのようだった。
与えられるとめどない快感に、朝海はただ溺れ続けた。
「あぁっ……さと、しさん、いいっ」
「朝海、好きだよ、朝海」
「私、も……あぁん、そこ、もっとして」
「あさみ……もっと可愛いところ、見せて」
「あ、やぁ、こんな格好──あぁぁっ……!」
今度は後ろから深く強く突かれ、朝海は背を反らして甲高く喘ぐ。
朝になる直前まで、聡志に責め立てられるのは終わらなかった。