私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。
「おはよう。お前ら、夏休みは楽しんだか?」


私の前の席に座る陽菜が、勢いよく立ち上がった。

「センセー! そんなことより、イケメンの転校生はどこですか!」

「はは。新学期早々元気だなぁ、田村」


田村というのは、陽菜の名字だ。

佐原先生は、教室に入るや否や質問してきた陽菜に対して、快活に笑った。

紳士風な顔立ちの佐原先生は、40歳を超えているにも関わらず、女子生徒のファンがとても多い。

ファンといっても、先生が結婚してること、加えて子供さん2人にメロメロなことは周知の事実なので、恋愛対象にはならないだろうけれど。


「お前らへの挨拶が先だ。
どうだ? 夏休みの間、悪さしなかっただろうな?」


朗らかに笑いながら先生が言うと、クラスのみんなは『はーい!』『してないよー』『いちおー』などと、まちまちに答えを返した。


「先生はー? 夏休み、エンジョイした?」

「おう。家族4人、明るく楽しく軽井沢旅行だ」

「えー、ずるーい!」

「大変だったんだぞ?
息子はおもちゃ屋でただこねて泣き喚くわ、娘は娘で、ちょっと目を離すとすぐにふらふらどっか行っちまうわ……」


ため息をつきながらも、その表情は満足げだった。
先生、本当に子供さんたちのこと、大好きなんだろうなぁ。


「じゃ、さくっと連絡事項だけ済ますぞ。
お楽しみの転校生はその後だ」


先生が連絡事項……宿題やテスト、2学期のスケジュールについて話している間もずっと、みんなは転校生のことを気にしてソワソワしていた。


(……こんなに注目されてたら、本人も出にくいよね……。
転校生って、大変だ)


そう思いつつ、私もみんなにつられて、なんだかドキドキソワソワしてきた。

でも、私には烈華様がいるから。

どんなにカッコいい男の子だったとしても、転校生を好きになることは、きっとないだろう。


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