私は今日も、虚構（キミ）に叶わぬ恋をする。

クラスメイトが一斉にざわついた。
陽菜は、口を開けて唖然としている。

そして、宝城先輩は、勝ち誇った笑みを浮かべていた。

「へぇ、意外。認めるんだぁ。
わかったでしょ？　アンタみたいな女、優星くんには相応しくないの。
これに懲りたら、二度と近づかないで。
優星くんにも、さは……」

「────何やってるんですか？　宝城先輩」


いつのまにか、宝城先輩の背後に優星くんが立っていた。

彼には珍しい、冷え冷えとした声色に、宝城先輩も私も、ぎょっと驚く。

が、宝城先輩は顔を引き攣らせながらも、勝気な笑みを作った。


「あ、あぁ、優星くん。ちょうどよかった。
今、この光峰って子が書いてる、サムい小説について教えてあげようと───」

「サムいってなんですか？」

「だからぁ、オタクの妄想全開の痛々しい小説書いてんだって、この子。マジ引かない？」

「……先輩、深月の小説、読んだんですか？」

「えぇ？　読むわけないじゃん。ただでさえイタいのに、文字だけはやたら多くて。
全部読んでたら何ヶ月かかるかわかんないのに、やってらんないわよ」

「そうですか。俺は全部読みましたよ」


優星くんは、とびきり優しい笑みを浮かべた。


「すごく面白かったですよ。
残念ながら、俺と先輩、全然趣味が合わないみたいですね」