私は今日も、虚構（キミ）に叶わぬ恋をする。

謝る？　陽菜が、私に？


「あたしも、深月に隠してた。大事なこと」

「……大事なこと、って？」

「それより先に、謝っておきたいことがあるんだ」


陽菜は、思いもよらぬことを言った。


「『佐原先生と深月がデキてる』って噂が流れたの、多分、あたしが原因なんだ」

「……え？」

「あたしが一学期に。クラスの子達に言っちゃったから。
『佐原先生のお気に入りは深月だ』って」

「どうして？」

「話せば長くなるんだけどさ……」


陽菜の話によると、一学期の後半ごろ、クラスメイトの友里くんたちが冗談まじりに、こう言ってきたらしい。


『田村、佐原にすげぇ絡むよな。
先生のこと好きなんじゃねーの？』


そして陽菜は、すぐさまそれを否定した。


『はぁ？！　そんなわけないじゃん！　バカじゃないの！？』

『怪しいよなぁ。事あるごとに先生、先生って寄ってくし。佐原もまんざらじゃなさそうだし？
怪しーよな。フリンだ、フリン』

『意味わかんない！　だいたい、あたしなんかより、深月の方がよっぽど先生と仲良いよ！　
委員長だからって、しょっちゅう2人で話してんじゃん！
佐原先生だって、あたしなんかより深月みたいな優等生の方がいいに決まってるよ！』

『あはは！　ま、そりゃそーか！
俺だって、田村より光峰のが断然いいわ』


その後、友里くんは別の男子に『お前言い過ぎ！』とたしなめられ、陽菜に謝った。
そこでその話は終わったらしいが、


「思い返してみたら、あの後、周りにいた女の子たちが、『光峰さんと佐原先生、なんかあやしーい！』って、盛り上がってたんだよね。

あのとき、ちょうど深月いなかったし。
変な噂が流れたのって、たぶんあのせいだと思う……。

あんな噂がなければ、ひょっとしたら宝城先輩もあんな風に深月の秘密バラしたりしなかったかもしれない。

本当にごめんなさい！」


「そんなの、陽菜のせいじゃないよ！」


万が一そうだったとしても、友里くんたちやクラスの女の子たちにも原因はある。
陽菜だけが悪い、なんてこと、絶対にない。