私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。
翌日、私は朝5時に起きて、学校のジャージに着替えた。

玄関で靴を履いていると、台所から出てきたお母さんに声をかけられた。


「珍しい。こんな朝早くにどうしたの? 深月」

「ちょっと、運動したくて」

「早朝ランニング? あら、いいわねぇ、健康的で。
お母さんも今度一緒に走ろうかしら。
最近太ももとお腹周りがすっかりたるんじゃってねぇ」


お母さんは困ったようにお腹を指さすが、私のそれとは違って、全然出っ張っていない、くびれた綺麗なウエストだった。


「……私もお母さんみたいに、痩せたいなぁ」

「気にしなくって大丈夫よぉ。
深月はまだ成長の途中なんだから。
これからどんどん綺麗になっていくわよ、きっと。

……でも、うん、運動するのはいいことね」


お母さんはニコニコ笑いながら、うんうんと頷いた。

お母さんもきっと、私が体重を気にしていることや、学校生活がうまくいっていないことに気づいていたんだと思う。


「あんまり無理しちゃダメよ。いってらっしゃい」


穏やかに笑顔に見送られて、私は玄関から一歩踏み出した。

本当は漫画のように颯爽と駆け出したかったのだけど、体が重くて、歩くのとほとんど変わらない速度でしか走れない。

同じようにランニングをしている人は愚か、犬の散歩をしているおじいさんにすら追い抜かれる。

けれど、澄んだ朝の空気が肌で感じられ、不思議と元気が湧いてきた。

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