おそかれはやかれ。
俺と木村先輩は何故か今一つ屋根の下に居る。
この前まで父さんと2人で使っていた食卓も4人になり賑やかになった。
木村先輩と俺の部屋は襖で仕切られてるだけでギターの練習する音がうるさすぎてやってられない。
「木村先輩!うるさい!」
「あー、結。俺もう木村じゃないから、中島だからさ、その呼び方やめてくれない?お兄ちゃんって呼べよ。」
「お兄ちゃん?あんたなんか海で十分だろ。それより、ギターの音うるさい!」
何度言ったらわかるんだコイツ。
「怒んなよ。ただでさえ捨てられたイヌッコロみたいなのに、キャンキャン吠えたらアホ犬みたいだぞ。」
「な!誰がイヌッコロだ!」
「おら、そこ座れ。」
すると海が歌い始める。
やっぱりうまい。
ギターの弦を抑える指、第一関節の綺麗な曲線。丸くて小さな爪。
嫌味を言わなければ、上品な口元から流れる綺麗な旋律は、また俺を虜にする。
ふっ。と海が顔を近づける。
「俺のこと好きなんだろ?」
「な、そんなわけないだろ。」
「一目惚れってやつ?女はあんまりないらしいけど、男は結構あるみたいだぜ。」
グッ…。
俺は少し勘弁した。
「…たしかに海の顔がいいのは認めるし、ドキッとしてないって言ったら、嘘になるけど…」
そう言うと海は寂しそうに、
「また、顔かよ。」
と呟いた。
「どいつもこいつも、俺のことを見てくれないじゃないか。結局俺の顔が好きなんだ。」
そう言うとギターを置いて、ベットに寝込んでしまった。
海の魅力的なところが顔だけなわけないじゃないか。歌がうまいところとか、全体から溢れ出るオーラとか、なんか上手くいえないけど、こう…。
咄嗟に俺は弁解した。
「海!ごめん。そんなつもりじゃなくて…。」
そう言うとベットに駆け寄った。
すると、綺麗な細い手が俺の手首を掴んだ。
グイッ。
引っ張られた俺は体ごと海の居るベッドの上に倒れる。
「そんなことで落ち込むわけねーだろ、ばーか。」
海があまりに少年のような悪戯な笑顔で笑うから、俺は、揶揄われたことに怒るよりも安心して泣いてしまった。
それを見て海はおろおろした様子だった。
海はなかなか掴みどころのない男だった。
女子に愛想を振りまく時の優しい顔は、世渡り上手な1人の男子高校生。
しかし、さっきみたいに、時折悲しそうな表情もみせる。
冗談なんて言うけど、俺にはそう見えなくて…。
「おい、泣くなよ。」
「ごめん。」
「弟泣かせたなんて知られたら真司さんや母さんになんて言われるか。」
「ごめん。」
海の手が俺の涙を拭う。
あったかくて懐かしい。
俺はきっと母さんがいなくなってから寂しかったんだ。
自分が気づかない内に、深く深く傷ついていたんだ。
こんな頼れる手に触れられるのは何年振りだろうか。
もう二度と失いたくないと思った。
この前まで父さんと2人で使っていた食卓も4人になり賑やかになった。
木村先輩と俺の部屋は襖で仕切られてるだけでギターの練習する音がうるさすぎてやってられない。
「木村先輩!うるさい!」
「あー、結。俺もう木村じゃないから、中島だからさ、その呼び方やめてくれない?お兄ちゃんって呼べよ。」
「お兄ちゃん?あんたなんか海で十分だろ。それより、ギターの音うるさい!」
何度言ったらわかるんだコイツ。
「怒んなよ。ただでさえ捨てられたイヌッコロみたいなのに、キャンキャン吠えたらアホ犬みたいだぞ。」
「な!誰がイヌッコロだ!」
「おら、そこ座れ。」
すると海が歌い始める。
やっぱりうまい。
ギターの弦を抑える指、第一関節の綺麗な曲線。丸くて小さな爪。
嫌味を言わなければ、上品な口元から流れる綺麗な旋律は、また俺を虜にする。
ふっ。と海が顔を近づける。
「俺のこと好きなんだろ?」
「な、そんなわけないだろ。」
「一目惚れってやつ?女はあんまりないらしいけど、男は結構あるみたいだぜ。」
グッ…。
俺は少し勘弁した。
「…たしかに海の顔がいいのは認めるし、ドキッとしてないって言ったら、嘘になるけど…」
そう言うと海は寂しそうに、
「また、顔かよ。」
と呟いた。
「どいつもこいつも、俺のことを見てくれないじゃないか。結局俺の顔が好きなんだ。」
そう言うとギターを置いて、ベットに寝込んでしまった。
海の魅力的なところが顔だけなわけないじゃないか。歌がうまいところとか、全体から溢れ出るオーラとか、なんか上手くいえないけど、こう…。
咄嗟に俺は弁解した。
「海!ごめん。そんなつもりじゃなくて…。」
そう言うとベットに駆け寄った。
すると、綺麗な細い手が俺の手首を掴んだ。
グイッ。
引っ張られた俺は体ごと海の居るベッドの上に倒れる。
「そんなことで落ち込むわけねーだろ、ばーか。」
海があまりに少年のような悪戯な笑顔で笑うから、俺は、揶揄われたことに怒るよりも安心して泣いてしまった。
それを見て海はおろおろした様子だった。
海はなかなか掴みどころのない男だった。
女子に愛想を振りまく時の優しい顔は、世渡り上手な1人の男子高校生。
しかし、さっきみたいに、時折悲しそうな表情もみせる。
冗談なんて言うけど、俺にはそう見えなくて…。
「おい、泣くなよ。」
「ごめん。」
「弟泣かせたなんて知られたら真司さんや母さんになんて言われるか。」
「ごめん。」
海の手が俺の涙を拭う。
あったかくて懐かしい。
俺はきっと母さんがいなくなってから寂しかったんだ。
自分が気づかない内に、深く深く傷ついていたんだ。
こんな頼れる手に触れられるのは何年振りだろうか。
もう二度と失いたくないと思った。