おそかれはやかれ。
学期末、休みに向けて授業が駆け込み気味になり、慌ただしい日々を過ごしていた。
期末テストはなんとか成績一位で終わったが、先生からお前らしくない凡ミスがあったなんて言われて最悪のできだった。
忙しさで、図書館の出来事のことを考えずに済んだのは良かったが、家に帰ると海のことを意識してしまう。


「俺が勉強教えてやろっか?」

「いいよ。」

「なに。いつにも増してつれねーじゃん。」

海の顔をまともに見れない、そんな日々が続く。



夏休みが始まった。

喧嘩した友達なんかと気まずくなれば距離がおけて有難い期間だが、俺たちはそうはいかない。
ましてや、休みの方が昼も夜もずっと一緒だ。

「最悪…。」

俺はポツリとつぶやいた。



最も、1番最悪なのは海は俺の知らないで、心の中に土足で入ってくることだ。

この間だって、部屋のクーラーが寒いからって俺の布団に入ってきた。

「おい!やめろ、くっつくな。」

「いいだろ、寒い。」

近づく顔に、俺は我慢するのが精一杯だった。
この唇で佐々木さんとキスをしたのだと思うと、こんなに近くにいるのに、触れることを許されない俺は神様からの試練を受けてるようだった。

くっつくな。俺の気持ちがバレてしまう前に。

そう思った。

海の寝顔は、いつもに増して綺麗で天使のようだった。

俺は海を置いてベランダに出る。


どうしちまったんだろう。
初めて海を見た時綺麗だと思った、2度目に会った時は綺麗な顔には似つかない、こんな一面もあるんだと思った。
一緒に暮らすようになってからは、海の温かさを感じた。
それは、兄になった海に対して、母さんのような温もりを感じたのか。
いや、それだけじゃない。
この胸のざわめきは家族になった海に向けられるものではない。
1人の男として、海のことを守りたい。
好きだと思うようになったんだ。


1人温かな夜風にあたりながら、思い耽る。

携帯の時刻は夜中の1:15 ふとメールが来ていたことに気づく。

陸からだった。

『夏祭りだけど集合時間17:00になったから、当日は駅前によろしく!』


そうだ。夏祭り。
楽しみだった夏祭り。

俺はここでケジメをつけようと決意する。


海に想いを伝えよう。
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