おそかれはやかれ。
結局俺たちはその日軽音部に見学に行くことにした。

どうやら軽音部は、今日は部室を離れて新歓ライブ“とやらを中庭の特設ステージでするらしい。

そこは桜が咲いていてすごく綺麗だった。
きっと普段は落ち着いた空間なんだろう。
しかし、今は人がいっぱいだ。

きゃーーーーーーーー!
女子の黄色い歓声が飛ぶ。
その先にはあの日の金髪の先輩がいた。

「木村くーん!」

女子たちがわいのわいの集まってくる。
それに応えるように木村くんはステージに上がる。

「皆んな、こんなにたくさん見にきてくれてありがとう。」

木村くんは、女子にチヤホヤされることに慣れている様子で、爽やかに微笑む。
俺はそれにすこしむっとした。
男たるもの誰だって女子にはモテたいものだ。

そんな俺の気持ちとは裏腹に爽やかな声は続けた。

「それじゃあ、聴いてください。ハルジオン」








木村先輩の声は、そこら辺の素人とは違う。いや、下手をすれば芸能人として活動している歌手ですら顔負けかもしれないほど魅力があった。
さっきまでキャーキャー騒いでた女子もうっとりして、木村先輩の歌を聴いている。

「俺軽音部に入りたい」
陸がまっすぐな眼差しでステージを見てそう呟く。
うん。いいと思う。
俺はそう頷いた。



陸は早速入部届を提出した。

俺も木村先輩には圧倒されたし、陸の後押しもあって軽音部に入部したいところだったが、陸のようにボーカリストになりたいわけでもなかったので断った。

けど今日は来てよかった。
木村先輩…。心の中で何度か呟いた。


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