優しくない同期の甘いささやき
迫られて
灰色の空を見上げて、水玉模様の傘を広げた。駅から会社までの道を歩くのに、足もとが濡れる。

じめじめした嫌な季節になった。

肩下5センチほどの髪がまとまらなくて、鬱陶しい。思いきって、ショートにしてしまおうかな。

傘を持っていない方の手で、毛先を押さえた。しかし、そちら側の肩にはバッグがあるから、うまく押さえられない。

前方に熊野の姿が見えて、私は傘を振りながら近寄った。


「おはよう」


隣に並ぶと熊野のキリッとした目がこちらを向いた。


「ああ、美緒か。おはよう」

「朝から雨でやだよねー」

「まあな。今日出掛ける予定あるの?」

「私はない。熊野はあるよね?」


昨日帰る時に、確認した熊野のスケジュールを思い出す。

熊野は顔を緩めて「ああ」と返事をする。


「美緒が俺の予定を把握してるの、うれしいね」

「把握しているというか、ちょっと気になっただけだよ」

「ちょっとじゃなくて、たくさん気にしろよ」

「うん……わかった」


素直に頷くのが気恥ずかしくなって、足元に視線を動かす。

熊野も同じだったようで、照れていた。
< 101 / 172 >

この作品をシェア

pagetop