優しくない同期の甘いささやき
「なんか調子が狂うけど、そういう素直な美緒も悪くないな」

「悪くない?」

「いや、いいよ。かわいいね」

「もうー、変なこと言わないで……ああっ!」


先を急ごうとした私の右足が水溜まりに入った。

冷たい……。


「ああー、バカだな」

「バカとはなによ? 労ってよ」

「ストッキング、履き替えたほうがいいぞ」

「それが彼女を労る言葉?」


私が口を尖らすと熊野は「さあな」と笑った。

なんだか悔しい。

私は傘を彼に向けて、振った。水がかかった熊野を見て、フンッと鼻息を荒くする。


「おいっ、ガキみたいなことするなよ」

「私をバカにした罰ですー」

「なんだよ、それ」


熊野が噴き出したので、私もつられて笑う。空は鬱陶しいけど、楽しい朝だ。

わたしは会社に入って、まずロッカー室へ行った。ストッキングのパンプスを替えないと気持ち悪いからだ。

予備のパンプスを置いていて、良かった。

営業部に行くと、私の席にバッグとノートパソコンが置かれていた。

熊野にバッグを持っていってと頼んでいたが、パソコンまで用意してくれたようだ。
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