優しくない同期の甘いささやき
父は咳払いして、立ち上がった。


「別に怒ってはいないよ。ただ騙されなければいいな思っているだけだ。外だけじゃなくて、ちゃんと中を見るんだよ」


私に言っていることだが、父はちらりと姉にも目を向けた、

姉は健人さんの外見に魅力を感じて、付き合いだしていた。きっかけはどうであれ、ちゃんと内面も見ていたと思う。

そうでなければ、結婚しようと考えなかっただろう。

父の言葉を受けて、姉は顔色を変えた。


「お父さん! 私は騙されたんじゃないの。あっちが心変わりしただけなんだから」


姉の反論に父はため息をつく。

心変わりといってしまえば、そういうものかと納得できそうではあるが、大事な娘を傷つけられた親としては複雑な気分であろう。


「終わったことを言って、悪かった。俺は美希と美緒が幸せになってくれればいいんだ」

「お父さん……」


父の切実な思いは、心にしみた。両親は誰よりも私たち姉妹の幸せを願ってくれている。

幸せになるのが、一番の親孝行だろう。

母が父の背中に手を触れた。


「お父さん……美希も美緒も幸せをつかむために頑張ってるわよ。私たちは支えてあげましょうね」
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