優しくない同期の甘いささやき
父は「ああ」と軽く頷いて、トイレと消えた。

母は肩をすくめてから、キッチンへ行く。夕食の準備をするようだ。私は、姉の前に腰を下ろしてスマホを操作した。

帰りの電車の中で、検索したあるサイトのレシピを見せる。明日は父の誕生日だ。


「明日のケーキ、これにしない?」

「どれどれ」


私のスマホを手にした姉は、じっくりと眺める。姉は器用で、料理は何でも作れる。

だから、ケーキ作りの大半を姉に任せようとひそかに目論んでいた。

父はチョコ好きなので、チョコレートケーキにしようと思った。

私にスマホを返しながら、姉は微笑む。


「いいね、それにしよう。あとで材料、買いに行こうか」

「うん」


心配ばかりかけている父へ心を込めて、作ろうと決めていた。

プレゼントはまとめてひとつにするか、個々にするか悩み、それぞれが渡すことになっている。

用意したプレゼントにメッセージカードを添えようと思いつき、夕食の時間になるまで自分の部屋にこもった。

メッセージを書いていると、スマホが着信を知らせる。相手は熊野だった。
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