優しくない同期の甘いささやき
退社後、熊野の部屋で異動の報告した。

より近くなると喜ぶかなと思っていたが、彼の反応は予想と違っていた。

顔には戸惑いの色があらわれていた。なにか問題でもあるのかと不安になる。


「どうかした?」

「俺たち、三か月後に結婚する予定だろ?同じ課になると、どちらかが異動になるよな?」

「あ、そうだよね……」


熊野は9月に入籍したいと家族の前で話したが、あのあと私たちは話し合った。その結果、10月に入籍して12月に挙式をすることに決めた。

うちの会社では夫婦になると同じ課にはいられなく、どちらかが別の部署に異動しなければならないと聞いたことがあった。

その話を聞いたときは、自分に関係のないことだと思っていた。

深く考えないで、異動を承諾してしまったかも。


「ごめん。熊野に相談してから、答えた方が良かったよね」

「いや、まあ、答えてしまったなら仕方ない」


彼は考えを巡らせているのか、黙り込んだ。

同じ会社で働いているし、結婚する予定になっているのだから、自分ひとりの問題ではない。

熊野にも関係のあることだ。
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