優しくない同期の甘いささやき
それなのに、私はひとりで決めてしまった。

今日私が受け入れたことで、人事異動がどこまで進んだかはわからないが、今になって異動できないとは伝えられない。

今回私が異動するから、結婚してから異動になるのは、きっと熊野だろう。

彼は今関わっているプロジェクトがあって、今年度中はそれに一番力を入れている。

その業務を途中でやめることになってしまう。できることなら、最後までやってほしい。


「私、結婚したら退職しようかな」

「は? なんでだよ?」

「家事と両立できるか不安だしね。短時間のバイトでもしようかなと思う。経済的には熊野に助けてもらっちゃうけどね」


熊野は困ったように頭をかいた。


「家計のことは気にしなくてもいいけど、結婚しても仕事を続けたいって、言ってただろ? 家事はふたりでやるって、決めたよな?」

「確かに言ったけど、いざ結婚となると、状況が変わることもあるし、考え方も変わるよ。私は頑張る熊野を支えたい」


今までやってきた仕事から離れるのは、正直寂しい。

仕事を取るか、結婚を取るか問われたら迷うところでもある。 

でも、熊野のことを一番に考えたい。
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