優しくない同期の甘いささやき
また黙り込んだ熊野が再び話し出すまで、静かに待った。

彼は、意志の強そうな目を私に向ける。


「結婚を遅らせてもいいか? 来年の3月にしたら、未練なく販売課から去れると思うんだ。俺のわがままで悪いけど……」

「いいよ、それでいいよ。そうしよう! どうしても早くに結婚しなければならない理由もないし、少し遅れても結婚したい気持ちは変わらないもの」


熊野の気持ちを軽くしようも笑って答えた。だが、彼は口を尖らせた。

私、変なこと言ったかな?


「なんで遅れるのに、うれしそうなんだよ?」

「熊野が例のプロジェクトをやりきれるのがうれしいからだよ? 結婚は焦ってしなくてもねー」


不機嫌になっていたから宥めると、熊野は膝を抱えて項垂れた。

そんな彼の手を握る。


「ごめん……余裕がなくて」

「ううん、熊野の気持ち、わかるから。あ、そうだ! まず同棲しちゃう?」


私の提案に熊野は「は?」と素っ頓狂な声を出した。

我ながら良案だと思ったが、どうかな?

熊野はとにかく早く一緒に暮らしたいと言ってたから、その願いを叶えられる案だと思うのだが。
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