優しくない同期の甘いささやき
「ねえ、美緒」


彼は私の髪を撫でながら、優しいまなざしで見つめる。

「なあに?」と答える私の顔は緩んでいるだろう。


「いつになったら、名前で呼んでくれるの? 俺の名前、知ってるよね?」

「えっ? 知ってるけど」


私は目を泳がせた。自分でも彼氏に対して『熊野』呼びはおかしいかもと思っていた。

だが、すんなり『祥太郎』呼びができない。熊野はさらりと私の名前を口にしたけれど、さらりとできない。

照れてしまう……。

彼と視線を合わせて、すぐ逸らす。

無理だ、言えない。


「ねえ、美緒ー」


焦れた声で呼ばれた。視線を彼の腹部あたりに向けていた私は、硬直していた。

名前を呼ぶのが、こんなにも難しいなんて……。


「美緒ー、こっち向いて」

「ごめん……」

「なんで、謝る?」

「だって、言えないから」


彼の手は私の両頬を挟んだ。 

そして、強引に上を向かされる。


「言えよ」

「えー」

「言うまで、何度もキスするからな」


そう言って、彼は深い口づけをした。本当に深くて、息をするタイミングがない。
< 148 / 172 >

この作品をシェア

pagetop