優しくない同期の甘いささやき
「なんで、赤くなってるんだよ? 美味しいだろ?」

「赤く……うん、美味しい……」


顔が熱くなっていた。赤いと指摘されて、さらに熱くなる。きっともう真っ赤になっているであろう。

祥太郎の箸が私のコロッケに伸びてきた。


「コロッケも美味しそうだな」

「あー!」

「なんだよ? ダメだった?」

「ダメじゃないけど」


祥太郎は私のコロッケの一部分を自分の箸で取って、食べた。残りの部分がとろりと飛び出している。

食べてはダメと、言わない。ただ私も同じように食べさせたかった。

同じように恥ずかしい思いをさせて、顔を赤くする祥太郎が見たかった。

非常に残念だ。


「なんか、悔しい」

「なにがだよ? 美緒、どうした?」


口を尖らせる私の顔を祥太郎が覗き込む。その顔をグイッと押した。

私の行動に驚いたのか、祥太郎は目をパチクリさせた。


「やっぱ、食べたから怒ってるのか? ごめん」

「違う。私だけが動揺させられて、悔しいの」


箸を置いた私は両手で顔を覆ったあと、目だけ出して、彼を見た。

祥太郎はフッと笑って、私の頭を撫でる。
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