優しくない同期の甘いささやき
「ついでにコーヒー淹れてくるから。美緒も飲むだろ?」

「うん、ありがとう」


彼が戻ってくるまでの間、私はダスタークロスでテーブルを拭いた。

曇り空だけど、外は蒸し暑そうだ。オフィス内は冷房がきいていて、快適だから外の気温を忘れてしまいそうになる。

退社後、外に出たときのムワッとする空気で帰るのが苦痛になることも多い。

そんなことを思っていると、目の前にコーヒー入りの紙コップが置かれた。


「ありがとう」

「いや、こっちこそ。拭いてくれて、ありがと」

「外、暑かった?」

「めっちゃ暑い。すぐに汗だくになるよ。俺、臭いかも」


祥太郎はワイシャツの胸辺りを掴んで、何度か動かす。

自分の匂いを確認してるのかな?

彼はシトラス系の香水をつけている。隣にいても、汗の匂いは漂ってこない。

香水の匂いもあまりしてこないような?

汗で消えたのかな?

どんな匂いになっているのか、確かめたくなった。少しだけ体を祥太郎の方へ寄せて鼻を動かす。

んー、全然わからない。

もう少し……。


「おいっ」


すぐ近くから祥太郎の焦る声が聞こえた。
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