優しくない同期の甘いささやき
その手をぎゅっと握られる。繋がった手を辿って、その先にある黒瀬さんの顔を真っ直ぐと見つめる。


黒瀬さんは私の大好きな柔らかな笑みを浮かべた。

手を繋ぐ意味はなんだろう?

まだ帰らなくていいのかな?

デートは終了ではない?

どこに連れていこうと?

疑問が、次から次へとわいてくる。


「無理強いはしたくないから、聞くね。ホテル行かない?」

「えっ?」


もしかしたら、もしかしちゃう? なんてあり得ない期待をしたこともあったけど、今日はそこまでの期待を寄せていなかった。

本当にもしかしてしまった。

好きな人に求められる嬉しさよりも、奥さんのことが頭をよぎった。

自分が奥さんの立場だったら、夫の裏切り行為は許せない。

それと、黒瀬さんが奥さんと別れて、私を選んでくれたなら喜んで付いていくけど、そうではない。

ここでホテルに行ったら、私はただの浮気相手になるだけだ。

私が望んでいるのは、そういう関係ではない。好きな人の一番大切な人になりたかったのだ。

だから、私は行ってはいけない。


「ごめんなさい。行きません」


繋がっている手を離そうとした。だが、黒瀬さんの手に力が加わった。
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