優しくない同期の甘いささやき
「帰したくない。加納ちゃん、俺のこと好きだよね?」


心臓がドキッと跳ねた。

私の気持ちは気付かれていたようだ。熊野だけしか知らないと思っていたのに、本人に知られていた。

私の態度が分かりやすいのかも。

今ここで肯定したら、後戻りできなくなる可能性は大きい。

自分の気持ちを偽りたくないけれど……どうしたらいいのだろう。

迷っていると、誰かがどこからか出てきた。


「待てよ」

「えっ…… は? 何で?」


近付いた人物は、私の繋がれていない方の腕を掴んだ。

掴んだのは、熊野だった……。

一体どこから現れた?

いつから付けていたの?

困惑する私とほぼ同時に黒瀬さんも動きを止めて、熊野と対峙する。

熊野の瞳は怒りに満ちていた。ここまで怖い顔、見たことがない……。


「加納をどこに連れていこうとしてるんですか?」


熊野は苦々しく私に視線を向けてから、黒瀬さんに訊いた。黒瀬さんは私の腕を掴む熊野の手を振り払う。


「見たらわかるだろ? 大人なんだから、見て見ぬふりしてよ」

「できるわけないでしょ? 奥さんいる身で何しようとしてるんですか?」

「熊野には関係ないだろ? 決めるのは加納ちゃんだからね。加納ちゃん、行こう」
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