優しくない同期の甘いささやき
惑わされて
新緑が眩しい季節だ。朝日を浴びる木々がキラキラと輝いているように見える。

ほぼ毎日通っているオフィスビルを見上げた。

つい最近まではこのビルも輝いて見えたのだが、今はくすんで見える。それは、自分の気分の問題だと分かっている。

私は、また誰かに恋することができるかな。

しかし、ここは恋する場所ではない。仕事をする場所だ。

気持ちを引き締めようと、自分の頬を軽く叩いた。

昨日、黒瀬さんは代休で不在だった。今日は出社予定になっている。つまりあの夜のあと、初めて顔を合わせるのが今日なのである。

どんな顔で朝の挨拶をしたらいいだろうかと昨夜から考えていた。

答えがでなくとも、ずっと立ち止まってはいられない。

まずは一歩だと足を出そうとした時、背中を押された。


「邪魔。こんなとこに立ってるなよ」

「熊野……ちょっと！　邪魔とはなによ？」

「ほら、さっさと歩け」


ぐいぐいと押されて、私は前へ前へと進む。


「もう！　押さなくても、ちゃんと歩けるから」

「そうか？　仕事もちゃんとやれよ」
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