優しくない同期の甘いささやき
私もいつもと同じ態度をとらないと、周囲から怪しまれるかも。

でも、今は無理。

黒瀬さんを拒絶してしまう。あんなにも好きだったのに、彼への気持ちは冷めている。

好きだったのは確かだけど、もう過去のことだ。

受信メールをひとつひとつ確認しながら、自分の気持ちを整理していた。

近くから甘い香りが漂ってきた。このフローラル系の香りは……。確認しようと振り向くよりも先に背後から抱きつかれた。


「美緒ちゃーん、おはよう!」

「知奈(ちな)、おはよう」


総務部に勤めている同期の福田知奈は、日頃から女性に対してのスキンシップが強めだ。

毛先に緩くウェーブがかかったブラウン色の髪型は、くりっと丸い瞳の知奈によく似合っている。

身長は私と同じくらいなのに私よりも小さく見えるのは、華奢な体型だからだろう。細いのに胸だけは大きくて、今のように抱きつかれるとそのボリュームを実感できる。

男性にはそこまで触れないからいいのだろうが、女性でもちょっとドキッとしてしまう。

知奈は私に何枚かの書類を渡した。


「課長に渡してもらえる?」

「 了解」

「ねえ、美緒ちゃん。なんか今日暗くない?」
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