優しくない同期の甘いささやき
「30過ぎてる俺から比べたら、ふたりはまだまだ若いよ」

「そういうおじさんっぽい言い方はやめたほうがいいですよー」


知奈が笑うと、黒瀬さんも笑った。私だけが笑えない。


「美緒ちゃん、ほんと今日おかしくない? 反応、悪いよ。なんかあった? 体調良くないの?」


いつもの私だったら、つられて大笑いしていただろう。知奈がおかしいと言うのは、当然だ。

私は笑えないし、黒瀬さんの顔も見られない。

この場から逃げたい……。


「加納、さっき腹が痛いって言ってたよな? 薬、飲んだ?」


助け船を出してくれたのは、熊野だった。一瞬、呆ける。


「えっ、あ……まだなの。飲んでくるね」


私は、常備している胃薬が入っているポーチを持った。


「美緒ちゃん、胃腸が弱いんだっけ? 無理しないでね」

「知奈、ありがとう」


総務部に戻るという知奈と並んで、廊下に出た。エレベーター前で知奈と別れて、私は休憩スペースへと向かう。

そこで、足を止めて振り返った。


「どうして熊野が付いてくるの?」

「ん? お前のストーカーだから?」


とぼけた返事をされて、私は顔をしかめた。
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