優しくない同期の甘いささやき
「忍者になりたかったとは、初めて聞いたな」

「今初めてなろうかなと思ったから、言ってなかったわ」


私の返事に熊野が顔を緩めて、フッと笑う。熊野の表情が緩んだから、私もへへっと笑った。

こんなふうに冗談言い合えるのは、同期の仲だからだ。

私たちは同じ営業部に所属している。課は違って、私がWeb課、熊野が販売課。

営業部は仕切りなしのワンフロアになっているので、いつでも顔が見える範囲に熊野はいる。

しかし、熊野は私に優しくない。


「くだらないことしてないでさ、それどこかに持っていくんじゃなかった?」


胸元に引き寄せていた書類を指差されて、ハッとなった。熊野と書類を何度か交互に見て、焦る。


「 いけない! 急がなくちゃ」

「バカだな、早く行けよ」

「バカって言わないでよ。熊野のせいじゃないのよ」

「絶対俺のせいじゃないだろ?」


絶対とは言いきれないけれど……熊野がそこで告白されていなければ、私が足を止めることはなかった。

だから、熊野のせいだ。

でも、それをあーだこーだと揉めている時間はない。


「あー、もう! 行ってくる!」

「おう」
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