優しくない同期の甘いささやき
それから、ため息をつく。その様子を見て、聞いてはいけないことだったのかも聞いたことを後悔した。

それでも、気になったことだった。熊野の返事を待つ。

熊野はコーヒーを飲み干してから、口を開いた。


「誰だと思う?」


逆に訊かれるとは思っていなかった。「えっ?」と返すと、熊野は空になった紙コップを片手で潰した。


「分からないから、聞いたんだよ」

「本気で分からないって、言ってるの?」

「分かったら、聞かないよ」

「確かにそうだな。お前、もっと俺のことを見ろよ」


紙コップを手にして、立ち上がる熊野は仰ぎ見た。

もっと見ろとは、どういう意味?

何が言いたいのか……。

何も言えずにいる私に熊野は顔を寄せた。


「俺はお前しか見ていないからな」


心臓が大きく揺れた。

思い返すと、いつも熊野は私を見ていた。私のあら探しでもしてるのかと思った。

いつも良からぬことばかり言うからだ。

しかし、今言われた私だけしか見ていないの意味は、今まで感じていたものと違うように思えた。
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