優しくない同期の甘いささやき
「加納」


メールの返信をしていたら、マウスを持つ手の横にちょっとゴツゴツした熊野の手が置かれた。

顔を上に向けると、私を見下ろす熊野と視線が絡む。

予想よりも近い距離にいた。速く動き出しそうになる鼓動を静めようと、落ち着いた声で答える。


「なに?」

「さっきメール、送ったんだけど」

「そうなの? 今他のメールの返信書いてたから、まだ見てない。急ぎ?」

「紙用と電子用のデザインが届いたから、そっちでも確認しといて。明日まででいいよ」


メールを送ったのなら、直接言いに来ることではない。

そういえば、熊野は以前から同じようなことをしていた。慎重派なのかなと思ったこともあったが、他の人には送信したメールについて直接言いに行ってはいないようだった。

私と話したいがために、言いに来ていた?

熊野を意識して見るようにすると、彼の今までの行動が思い起こされる。

大した用事でなくても、私のところによく来ていた。

不思議に思ったことはなかったが、よくよく考えると……好意があるからではないかと……思ってしまう。
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