優しくない同期の甘いささやき
「だって……熊野がもっと見ろと言うから」

「なるほど。それで、興味を抱いたってわけか」

「そんな、別に、興味なんか……」



持っていないと反論したかった。でも、出来なかった、

熊野の手が私の頭に乗ったからだ。


「いいよ、もっと見てよ」


しかも、口調が優しかったので本当に熊野なのかと思った。

私が言い返すよりも早く、熊野は片手をあげて、廊下へと行ってしまう。

そんなにも、トイレに行きたかったのかな?

トイレに行こうと別なところに行こうと、私には関係のないことだ。そのなのに、なぜ気にしてしまう?

良からぬことを考える自分を叱責して、熊野の態度を思い返した。

自分で俺を見ろと言ったくせに、私が見ていたことに困惑していた。それに、嬉しそうだった。

好きな人に見られたら嬉しい……私もそうだったから、そういう気持ちになるのは理解できる。

熊野は本当に私が好きなのかな?

まだ確認してはいない。

なかなか確認できる内容ではない。

今、確認すべきことは熊野から送られたデザインだ。

雑念を消すように頭を軽く振った。

熊野に惑わされている余裕はない。やるべきことをミスなく、やらなければいけない。
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