優しくない同期の甘いささやき
「美緒ちゃーん」


知奈に呼ばれて、熊野から送られてきたデザインに目を通していた私は、顔を横に動かした。

ニコニコ顔の知奈を見て、嫌な予感がした。こういう顔の知奈は、なにか頼み事があるのだ。


「 なに?」

「 いま、彼氏いないよね?」

「うん」


知っていることをわざわざ確認する意味は……。


「私の彼氏の先輩が誰か紹介して欲しいんだって。美緒ちゃんを紹介してもいい?」


やはり……そんなことだろうと思った。

彼氏もいなければ、好きな人もいない。断る理由がない。

でも……首を縦に振れない。

どうしようかなと考える私に、知奈はスマホの画面を見せてきた。

そこには、ふたりの男性が写っていた。ひとりは見たことのある顔で、知奈の彼氏だとすぐに分かった。

知奈はその隣にいる人を指さす。


「この人がお相手よ。良さそうな人でしょ?」


知奈の彼氏の先輩で恋人募集中だという説明もされた。だが、私は恋人募集していない。


「良さそうな人だね。でも、私は遠慮しておこうかな」

「ダメだよー」

「えっ、どうして?」
< 35 / 172 >

この作品をシェア

pagetop