優しくない同期の甘いささやき
私は何も発せずにいるが、ふたりが話しているのは私のことだ。

「あら?」と言う知奈の瞳に光が灯った、


「やっと動き出したの? それで美緒ちゃんは?」

「まだ、なにも……」


熊野はバツの悪そうな顔で、知奈から視線を逸らした。

知奈は呆れ顔で、熊野を見た。


「まだなにもないのなら、私が誰かを紹介してもかまわないでしょ? ね、美緒ちゃん」


いきなり自分に話を振られて、私は「え?」と知奈を見た。今、知奈は何を言った?


「美緒ちゃん、とりあえず食事しようね。あとで、連絡するね!」


知奈は言うだけ言って、この場を去ろうとする。


「ちょっと、待ってよ」

「待て!」


私の声に熊野の声が被さった。知奈は私たちを交互に見る。

熊野が先に声を発した。


「俺もそれ、行く」


今度は私と知奈の声が「えっ?」と揃った。


「俺にも場所が決まったら、連絡しろよ」


知奈がすかさず反論する。


「どうして熊野も行くのよ? 教えないからね」

「だったら、あとを付ける」


そう言った熊野は、知奈よりも先にこの場から離れた。知奈は熊野の背中を見て、ため息をつく。
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