優しくない同期の甘いささやき
そんな照れた顔を見せられたら、こっちまで照れてしまう。

熊野はポツリとなにかを呟いた。聞き取れなかったので、「なに?」と顔を近付ける。

熊野も私の耳もとに口を寄せた。


「好きなんだ」


私にだけしか聞こえないささやきだったけど、ハッキリと耳に届いた。

私は顔を彼の方に向ける。視線がまじり合う。


「 いつから、好きでいてくれたの?」

「一年目からだよ」

「そんなにも前から?」

「加納は他の男しか見ていなかったけど、俺はずっと加納を見ていた。だから、誰を好きなのかも分かった」


熊野は私をずっと見ていたから、私の片想いにも気付いていた。

自分のことを見ない私を好きでいてくれた。


「加納が欲しい」


熊野の瞳に熱がこもる。その瞳を逸らせない。

告白されたのは、素直にうれしかった。

私を求める熊野が愛しくなる。

最近まで別の人を好きだったのに、今は熊野しか見えない。

こんな簡単に心変わりするものなのかな?

自分の気持ちを疑いたくなる。

何も返さない私に熊野は焦れたようだ。
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