優しくない同期の甘いささやき
私は、ギョッとした。

こんなところで、何を暴露しているの?

熊野の言葉に板野さんが「そうか」と納得したように頷いた。


「熊野さんは加納さんが好きなんですね。どおりで、加納さんを見る目が優しかったわけだ。同期だからなのかなと思っていたけど、なるほどね。山岡くん、諦めなよ。どう見ても、熊野さんの方がいい男だ」

「失礼な! 外見ではかなわないかもしれないけど、俺は熱い男なんです」


ムキになる山岡さんに板野さんは呆れた様子で返す。


「その熱は、仕事に向けろって。ほら、加納さんが困っているよ?」


板野さんと山岡さんが私に目を向けた。私は、肩をすくめた。


「すみません……熊野が言ったように、今はどうしても考えないことがありまして……他の人のことを考える余裕がないです。山岡さん、ごめんなさい」


謝る私を前にして、山岡さんは戸惑った。


「いや、あの、謝らないでください。実は、お姉さんの様子を知りたかっただけなんです」

「そうなんですか?」


山岡さんは気まずそうにして、頭をかいた。
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