優しくない同期の甘いささやき
「めっちゃ必死で、見苦しいよな」


沈んだ声を出す熊野を笑った。そんな姿を見せられて、本気で怒れない。

むしろ、愛しくなってしまう。


「最近の冷静じゃない熊野って、おもしろいよね」

「おもしろがるなよ」

「でも……ちゃんと……熊野の気持ちは……伝わってきた」


たどたどしく話すと、沈んでいた熊野の表情が一変する。

明るい兆しを見つけたような顔だ。


「それってさ、前向きに考えていると判断してもいいよな?」

「そんなふうに言ってないよ?」

「いや、そんなふうに言ってたぞ」

「ええー、絶対言ってないってばー!」


からかい口調の熊野の背中をバシバシと叩いた。

熊野は「痛い」と言いながらも、うれしそうに笑う。


「さあて、帰ろうぜ」


気持ちが軽くなったようだ。私も軽くなっていた。

爽やかな風が心地よくて、自然と顔が緩む。


「今日は定時で帰りたいなー」

「俺も帰りたいけど、17時に来客対応あるんだよ」

「大変だね。頑張って!」


熊野は「おう!」と微笑んだ。
< 62 / 172 >

この作品をシェア

pagetop