優しくない同期の甘いささやき
姉は昔を思い出したのか、目を細める。


「私も懐かしいな」

「高校生の時、付き合っていたんだよね?」

「やだ、そんなこと思い出さなくていいのにー」

「山岡さんが言ってたよ。お姉ちゃんが結婚したと知って、ショック受けてた」


私たちの会話を聞いていた母が「ああ!」と両手を叩いた。

なにかを思い出したようだ。


「山岡くんね! 礼儀正しくて、かわいい子だったよね」

「かわいいって、そんなことを言うのお母さんだけよ」

「いつもニコニコしていて、かわいかったわよ」

「ニコニコしていたっけ? 楽しい人ではあったけどねー」


母と姉は、昔話に花を咲かせた。

私は記憶になかったが、何度か家に来ていたらしい。姉の初めて付き合った人だったようだ。

今の山岡さんはかわいいと思える姿ではない。

昔、見せてもらった写真もかわいいというよりも優しそうなお兄さんだったと思う。


今も優しそうな雰囲気がある。


「山岡くんはまだひとりなの?」


母に問われて、私は「うん」と答えた。
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