優しくない同期の甘いささやき
姉は「そっか」と呟いてから、キュウリの漬け物を口に入れた。

一瞬表情が曇ったように見えたけれど、気のせいだったかな。


「健人くんの出張先はどこなの?」


母からの問いかけに、姉の体がビクッと揺れた。

どうした?

なんだろう?


「たぶん大阪かな?」

「たぶんって、ちゃんと知らないの?」

「あちこち行ってるから、忘れちゃったのよ」


姉の返事に違和感があった。あちこち行ってるからと、忘れるものなのかな。

今夜の姉は、おかしい。


「お姉ちゃん、何かあったの?」

「ううん、何もないよ。いつもと変わらない平凡な日常……」


やはり先ほどまでの明るい様子と違う。健人さんの話をしたくない……そんなふうに感じた。

山岡さんの話は楽しそうにしていたのに。

健人さんと喧嘩でもしたのかな?

夫婦のことを詮索するのは良くない。

何かあれば言うだろう。何もないから、言わない……そう思うことにした。


そのまた翌日の朝、父と一緒に家を出た。普段、父の家を出る時間は私よりも遅い。

久しぶりに父と並んで歩いた。
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